安田塾メッセージ№45 第13回安田塾の事後報告㊦
2012年1月31日 小林伸一
第13回安田塾(2012.1.21)の講演
「もしあなたが教育困難校の教員あるいは管理職だったら~子ども一人ひとりの輝く未来のために~」
【講師】小林伸一(こばやし・しんいち)
【会場】武蔵野商工会館5階・第1会議室
私は第13回安田塾で、講演をする機会に恵まれました。
現在、教育現場には暴力・器物破損・いじめ・不登校・自殺・学級崩壊・学力低下・学ぶ意欲の低下・主体性の欠如・モラルの低下・モンスターペアレント等々、実に多くの問題・課題が山積しています。
これらの問題・課題に対し、マスコミ等では著名な評論家が、学校や教師批判を繰り返す一方、課題を歪曲化あるいは単純化して、こうすれば問題が解決できると宣伝しています。また文部科学省を始めとする教育行政も様々な教育施策を打ち出してきています。
しかし、今年公立中学校で教師生活25年を迎える私だけでなく、1年目の同僚ですら、これらの指摘や施策の一部がいかに的外れなものなのか、現場にいれば実感としてわかるのです。
今回は前半(約1時間)で教育現場の現状を、そして現場の思いを伝え、中盤から後半(1時間半)にかけて、困難極める教育現場に、もしあなたが直接生徒指導を行える教員だったら、あるいは経営権を持った校長(管理職)だったら、という想定で課題解決のためのブレーンストーミングを行いました。
【講演内容の要約】
(1)公立中学校の問題・課題
話を行う前に最初に「あなたが教育困難校の教員もしくは管理職だったら、学校の立て直しができるか」という問いを参加者に投げかけた。圧倒的にできないと挙手するものが多い。
教育に携わるか否かにかかわらず、現場に山積している問題・課題を解決するのは非常に困難であるとの思いは同じようである。
①現場の裁量権を狭める「統括校長」制度
教育行政から現場に合わない施策が下りてきた時、今までは校長裁量で無視することもでき、総合的に学校経営がうまくいっていれば咎められることもなかった。
今は校長の上に統括校長がいるので、校長になっても常に上を見ていなくてはならず、現場の声を吸い上げない校長が増えた。こうした校長の多くは文科省からの通達を教職員に下すだけで、目の前にある問題生徒に対応できず、学校が荒れる原因になっている。
②設備は区市町村負担、教員は都費負担。
同じ都内でも財政基盤は特に区中心部と多摩西部ではかなり違う。
例えば生徒数が同じ規模の新宿と八王子を比較した場合、新宿は区採用の教員が複数名おり、教職員配置数が1.5倍ほど多い。また備品や消耗品の購入金額も大きく異なる。
教員が多ければ問題行動に対応する余裕があり、金額が多ければより良い授業ができる。教員は都費負担なので特定の区市町村にとどまる義務はないのだ。よって教育困難校・地域に配置された教員は、最初から腰を落ち着かせて仕事をせず、3年の任期を終えると異動するため、保護者や地域とのつながりができない。
③学校は四面楚歌
マスコミでは連日教員の不祥事を面白おかしく伝え、学園ドラマでは規範意識を高めようとする教員が分からず屋、不良の立場に立つ教員は物わかりが良いとされる。
その影響もありテレビのように対応すべきと学校非難を繰り返す保護者と生徒のいかに多いことか。学園ドラマはセンセーショナルでなければ視聴率が取れず、テレビの中だけの異常事態がどこの学校でも見かけられる常識になってしまう。現場では学園ドラマがヒットすると学校が荒れるといわれている。また常に校外で問題行動があるような学校は、地域のみならず警察からも学校の対応が悪いと非難される。支援に回るはずの教育委員会も責任逃れ。
結局教員・学校だけが叩かれる。教員・学校が一番悪いのか?
④政治家の無関心
ホワイトハウスと首相官邸のホームページを比較しても、いかにこの国は教育に力点が置かれていないかがわかる。子育て世代だけが興味関心を示すだけなので、票にならない教育は無視される現実がある。
こんなことで国家の将来を語ることができるのか。教育は社会の基盤を作っている。その基盤が揺らいでいる。
⑤学力向上
遠山敦子元文科省大臣の「学びのすすめ」によって学習指導要領を超える記述が容認され、都立高校でも自校問題作成校が登場、入試問題の難問化がおこる。アルファベットがCまでしか書けない、自分の名前の漢字を間違える、2ケタの加減算がわからない生徒がいる一方、同じ教室に難関高を目指す生徒がいる。
教員1人に生徒40人。例えば受験の時期に教師は何を教えればよいのか。
⑥ゆとり教育
小学校は学習指導要領に沿って体験学習や自ら学び考える授業に転換してきた。
「生きる力を育む」という理念は基本的には良いと思う。その反面、繰り返し学習で定着させてきた基礎基本がおろそかになっている。
中学校には、今まで以上に学力の差がついて生徒が入学するようになった。高校入試は学習指導要領の意向がある程度反映されているとはいえ、「生きる力」のより高い生徒が難関校に合格するわけではない。
入り口を変えたら出口も変更してほしい。こうして中学校は基礎学力がない生徒に生きる力を育みつつ、今まで同様の高校入試に対応していかなければならない。矛盾は中学校に一番現れている。
(2)課題解決策
こうした現場の問題・課題に関して、様々の貴重な意見がブレーンストーミングで出された。
①学校関係者ではない方も、どんどん学校に入っていく。
②マスコミ、ドラマは学校を悪く描かない。
等々。現場でさっそく翌日から使えるご意見もあった。
しかし、「もう小手先だけで解決できるところにない。ガラガラポンでゼロから始めるべき。」というある参加者の意見に多くの方が賛同しているようだった。
(3)総括
時間枠の2時間半があっという間に過ぎ去りました。こちらの思いをすべて伝えることはできなかったが、参加者の方の温かいご意見のおかげで良いブレーンストーミングができました。
教育困難校といっても、8割は一生懸命真面目に生活している生徒です(経験的には普通は95%くらい)。
我々教員はこうした生徒のためにもあきらめることなく、日々教育活動を行っていかなければなりません。
きょうは参加者の皆さんと忌憚のない意見を交換することにより、明日から学校でやっていく活力をいただいた気がします。
天候の悪い中、参加していただいた方々には感謝いたします。ありがとうございました。
第13回安田塾(2012.1.21)の講演
「もしあなたが教育困難校の教員あるいは管理職だったら~子ども一人ひとりの輝く未来のために~」
【講師】小林伸一(こばやし・しんいち)
【会場】武蔵野商工会館5階・第1会議室
私は第13回安田塾で、講演をする機会に恵まれました。
現在、教育現場には暴力・器物破損・いじめ・不登校・自殺・学級崩壊・学力低下・学ぶ意欲の低下・主体性の欠如・モラルの低下・モンスターペアレント等々、実に多くの問題・課題が山積しています。
これらの問題・課題に対し、マスコミ等では著名な評論家が、学校や教師批判を繰り返す一方、課題を歪曲化あるいは単純化して、こうすれば問題が解決できると宣伝しています。また文部科学省を始めとする教育行政も様々な教育施策を打ち出してきています。
しかし、今年公立中学校で教師生活25年を迎える私だけでなく、1年目の同僚ですら、これらの指摘や施策の一部がいかに的外れなものなのか、現場にいれば実感としてわかるのです。
今回は前半(約1時間)で教育現場の現状を、そして現場の思いを伝え、中盤から後半(1時間半)にかけて、困難極める教育現場に、もしあなたが直接生徒指導を行える教員だったら、あるいは経営権を持った校長(管理職)だったら、という想定で課題解決のためのブレーンストーミングを行いました。
【講演内容の要約】
(1)公立中学校の問題・課題
話を行う前に最初に「あなたが教育困難校の教員もしくは管理職だったら、学校の立て直しができるか」という問いを参加者に投げかけた。圧倒的にできないと挙手するものが多い。
教育に携わるか否かにかかわらず、現場に山積している問題・課題を解決するのは非常に困難であるとの思いは同じようである。
①現場の裁量権を狭める「統括校長」制度
教育行政から現場に合わない施策が下りてきた時、今までは校長裁量で無視することもでき、総合的に学校経営がうまくいっていれば咎められることもなかった。
今は校長の上に統括校長がいるので、校長になっても常に上を見ていなくてはならず、現場の声を吸い上げない校長が増えた。こうした校長の多くは文科省からの通達を教職員に下すだけで、目の前にある問題生徒に対応できず、学校が荒れる原因になっている。
②設備は区市町村負担、教員は都費負担。
同じ都内でも財政基盤は特に区中心部と多摩西部ではかなり違う。
例えば生徒数が同じ規模の新宿と八王子を比較した場合、新宿は区採用の教員が複数名おり、教職員配置数が1.5倍ほど多い。また備品や消耗品の購入金額も大きく異なる。
教員が多ければ問題行動に対応する余裕があり、金額が多ければより良い授業ができる。教員は都費負担なので特定の区市町村にとどまる義務はないのだ。よって教育困難校・地域に配置された教員は、最初から腰を落ち着かせて仕事をせず、3年の任期を終えると異動するため、保護者や地域とのつながりができない。
③学校は四面楚歌
マスコミでは連日教員の不祥事を面白おかしく伝え、学園ドラマでは規範意識を高めようとする教員が分からず屋、不良の立場に立つ教員は物わかりが良いとされる。
その影響もありテレビのように対応すべきと学校非難を繰り返す保護者と生徒のいかに多いことか。学園ドラマはセンセーショナルでなければ視聴率が取れず、テレビの中だけの異常事態がどこの学校でも見かけられる常識になってしまう。現場では学園ドラマがヒットすると学校が荒れるといわれている。また常に校外で問題行動があるような学校は、地域のみならず警察からも学校の対応が悪いと非難される。支援に回るはずの教育委員会も責任逃れ。
結局教員・学校だけが叩かれる。教員・学校が一番悪いのか?
④政治家の無関心
ホワイトハウスと首相官邸のホームページを比較しても、いかにこの国は教育に力点が置かれていないかがわかる。子育て世代だけが興味関心を示すだけなので、票にならない教育は無視される現実がある。
こんなことで国家の将来を語ることができるのか。教育は社会の基盤を作っている。その基盤が揺らいでいる。
⑤学力向上
遠山敦子元文科省大臣の「学びのすすめ」によって学習指導要領を超える記述が容認され、都立高校でも自校問題作成校が登場、入試問題の難問化がおこる。アルファベットがCまでしか書けない、自分の名前の漢字を間違える、2ケタの加減算がわからない生徒がいる一方、同じ教室に難関高を目指す生徒がいる。
教員1人に生徒40人。例えば受験の時期に教師は何を教えればよいのか。
⑥ゆとり教育
小学校は学習指導要領に沿って体験学習や自ら学び考える授業に転換してきた。
「生きる力を育む」という理念は基本的には良いと思う。その反面、繰り返し学習で定着させてきた基礎基本がおろそかになっている。
中学校には、今まで以上に学力の差がついて生徒が入学するようになった。高校入試は学習指導要領の意向がある程度反映されているとはいえ、「生きる力」のより高い生徒が難関校に合格するわけではない。
入り口を変えたら出口も変更してほしい。こうして中学校は基礎学力がない生徒に生きる力を育みつつ、今まで同様の高校入試に対応していかなければならない。矛盾は中学校に一番現れている。
(2)課題解決策
こうした現場の問題・課題に関して、様々の貴重な意見がブレーンストーミングで出された。
①学校関係者ではない方も、どんどん学校に入っていく。
②マスコミ、ドラマは学校を悪く描かない。
等々。現場でさっそく翌日から使えるご意見もあった。
しかし、「もう小手先だけで解決できるところにない。ガラガラポンでゼロから始めるべき。」というある参加者の意見に多くの方が賛同しているようだった。
(3)総括
時間枠の2時間半があっという間に過ぎ去りました。こちらの思いをすべて伝えることはできなかったが、参加者の方の温かいご意見のおかげで良いブレーンストーミングができました。
教育困難校といっても、8割は一生懸命真面目に生活している生徒です(経験的には普通は95%くらい)。
我々教員はこうした生徒のためにもあきらめることなく、日々教育活動を行っていかなければなりません。
きょうは参加者の皆さんと忌憚のない意見を交換することにより、明日から学校でやっていく活力をいただいた気がします。
天候の悪い中、参加していただいた方々には感謝いたします。ありがとうございました。
by tadyas2011
| 2012-01-31 22:16
| 安田塾の事後報告